おしらせ
未来へのメッセージ 鮮ど市場社長・田中敏弘氏(S40回)
[2017-02-15]
失敗恐れぬ勇気持て (1月29日 毎日新聞 / 熊本版)
<自身を補欠人生だったと振り返る>
幼稚園の頃から家族の団らんがほぼない状態で、1人でやっていたのが、ボールの壁当て。中学時代は体が小さくて学校の野球部に入れず、地域のボーイズリーグで野球していた。九州学院でも、ついていけるのか迷って野球部に入った。走ってばかりの厳しい練習に何度涙したか。でも振り返ると、全ては九学、明治大の野球を通して経験し、身につけ、出会ったことが今につながっていると思う。
<鮮ど市場入社5年目から2年がかりで社会人野球チームを創設した>
人事を受け持った時、スペシャリストを派遣で雇って効率よくやる話が進んでいたので異を唱えた。会社にとって良き人材とは、本当のピンチに会社のために一生懸命頑張れる人間だと。念頭にあったのが、野球部時代に同じ釜の飯を食い風呂に入って、ケンカもし、時に抱き合って喜ぶ、そうやって生まれた絆のこと。だから創ると。
<創部2年目の2007年、都市対抗野球と日本選手権に出場を果たす>
自分の持っているものは全部伝え、経験させた。本当に真剣に野球人として野球を教え込んだのは最初の1年だけ。その1期生が中心になって2年目に大企業チームを破って奇跡を成し遂げた。今、人材不足が課題となる中、野球を通して入社してくれる選手たちが会社の武器になっている。
<昨年4月の熊本地震では6階建て本社ビルが大きく損壊し、解体され更地になっている>
本震の翌日、最初に声をかけたのが野球部の選手たち。本社に来れるかと聞くとバッと来てくれ、ビルに会社の命があるから全部取り出したいと伝えた。社長としてまず考えたのが、25日に給料を払わなければということ。でも誰が何年勤めて、いくらもらっているかも全て分からなくなる。だからみんなでパソコンや書類など全部買い物カゴに入れて取り出した。余震も続く中、会社のピンチに逃げずに助けてくれた。
<地震後しばらくは選手らに練習よりボランティア活動を優先させた>
損得ではなく何が最善か。チームとして求められている場所はないか探した。選手たちにはあの時の判断、あの時の景色を後々思い出してほしい。だから2016年は会社も野球も最高の1年だったと言っている。野球では勝ち負けよりみんなが心を動かして過ごせた記憶に残る1年。おのおのそれを引き出しにしまっているので、いつかそれが表に出てくればいい。「利他の心」も九学で教わった言葉。人の喜ぶ顔を見るのがどんなに幸せな気持ちになるのかと。
<若者には「勇気を持て」と訴える>
社会は強敵。でも失敗しても諦めなければ成功につながる。失敗を恐れない勇気を持って、自分の生き様に誇りと自信を持って語れるような人生を送ってほしい。そうしたら夢はかなっていると思う。僕自身そうだったし、1人じゃ何もできないから、人間社会は。【福岡賢正】
■人物略歴
たなか・としひろ
1987年、九州学院3年で夏の甲子園に出場。明治大を経て日本通運でプレーし、97年には全国社会人野球ベストナインに三塁手で選出される。引退後の2001年に父弘文氏が創業したスーパーマーケット、鮮ど市場に入社し、06年に社会人野球チーム「熊本ゴールデンラークス」(16年に「鮮ど市場ゴールデンラークス」に改称)創設。現在は社長、球団監督を務める。